AIに特化した世界初のモジュラー型L1ブロックチェーンを開発中の0G Labsが提唱する新たなNFT規格「ERC‑7857」に基づくiNFT(Intelligent NFT)。2025年の初頭から噂になっていたAI絡みのニュータイプNFTへの期待は高まるばかり。0G Labsの公式サイトやDiscordの情報を見るかぎり、進捗は順調のようであるものの、まだサービスインに向けての大々的な発表には至っていないようだ。ということで、現状わかっていることをここで整理し、その仕組みと意義を改めて検討しておきたい。
これまでの情報から、0G Labsとしては「既存のAIの利用形態はAPI1 型の利用に依存しており、そこからの脱却が必要」という認識が前提にあるようだ。そこで、従来のAPIベースのAI利用における限界と思われる要素を確認したうえで、ERC‑7857が提示する「AI所有」の可能性について構造的・技術的観点から分析し、Web3時代におけるAIの新たな価値像を思い描いてみよう。
AIの所有とAPIモデルの限界
今日、一般的なAIの利用形態は、OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeなどに代表されるAPI型の利用に依存しているのは確かな事実だろう。この仕組みでは、ユーザーはAIとの対話や機能の利用こそ可能であるものの、AIモデル自体の内容にアクセスしたり、改変・移転・売却することはできない。すなわち、ユーザーはAIを「使用」しているにすぎず、「所有」しているとは言い難い状況ということになる。
この問題に対して、0G Labsは、AIを自律的・暗号的に所有可能な新たな資産形態として再定義しようとする試みを開始した。それが、ERC‑7857およびiNFTと呼ばれる構想だ。
ERC‑7857とは何か──その仕様と目的
ERC‑7857は、AIモデルをNFT化するために策定されたEthereum準拠の新規トークン規格。従来のNFT規格(ERC‑721/ERC‑1155)が主に静的メタデータの保管を想定していたのに対し、ERC‑7857は学習・成長し続けるAIエージェントを対象とし、NFTが持つべき構造と権限を動的に再定義するものとされる。
この規格によって、AIを一個の「自己更新可能なデジタル資産」として扱うことが可能となり、所有者はそのAIの能力・成長・移転に対する排他的権利を有するということになる。
従来NFTの限界とERC‑7857の必要性
これまでのNFTは、画像・動画・音声といった静的なデジタル資産をトークン化する設計思想に基づいていたため、AIのように情報を内在的に更新し続ける存在には適合しなかった。また、通常のNFTではメタデータが公開形式で保持されることが多く、AIモデルのパラメータや学習履歴といった機密性の高いデータを安全に保管・移転することは困難であった。
このような構造的課題に応えるために設計されたのがERC‑7857であり、それは進化する知的エージェントを秘匿しながら所有・移転・更新可能とする新たなNFTの実現を目指している。
ERC‑7857の構造と機能的特性
ここからは、ERC-7857の特性を具体的に見ていこう。
暗号化メタデータによる内部構造の保護
iNFTは、AIモデルの中核をなす情報──たとえばネットワーク構造、学習履歴、パラメータ群など──を暗号化メタデータとして格納する。このメタデータには、モデルが出力を生成する際に用いる重要な内部パラメータ、すなわち「重み2(weight)」が含まれている。
この「重み」とは、ニューラルネットワークの各層における入力値に対し、どれだけの重要度を与えるかを示す数値的指標であり、AIが判断や予測を行う際の基盤となる。学習過程においてこれらの重みが更新されることで、モデルの性能や“個性”が形成されていく。つまりは、重みの集合はそのAIの知識体系や判断傾向そのものであるといえる。
ERC‑7857では、これらの情報を暗号化してNFT内に格納し、外部からは内容が読み取れないよう設計されているとのこと。その結果、AIモデルの安全性を損なうことなく、所有・譲渡・更新といった操作が可能となる。
移転時の再暗号化と情報漏洩の防止
iNFTは所有者の変更にともない、オラクル3 や外部キー管理システムを通じて再暗号化される。これにより、旧所有者から新所有者への知識移転は保証される一方で、旧所有者による内容保持・再利用は原理的に不可能となる。なるほど、この仕様であればAIモデルのセキュアな売買・譲渡は可能そうだ。
学習による状態更新とiNFTの可変性
ERC‑7857におけるiNFTは、AIが新たな情報を学習するたびに内部状態を更新する構造を持つ。この可変性4 により、NFTは生成時の情報に固定されることなく、時間とともに機能的に進化していく。
この動きは、従来の「一度発行されたら内容が不変であるNFT」とは根本的に異なる。例えば、ユーザーの質問に繰り返し答えることで言語能力を高めたiNFTは、時間の経過とともにより高精度な応答を可能が可能になるということだろう。このような「自己変化可能な資産」という性質こそがERC‑7857の最も革新的な特徴だ。
プライバシー保持と整合性の両立
ERC‑7857は、TEE(信頼された実行環境)5 やZKP(ゼロ知識証明)6 を活用することで、メタデータの秘匿性を保ちつつ、NFTとしての正当性・一貫性を保証する構造を備えている。これにより、AIの知的内容を公開せずに「所有していること」や「整合的であること」を証明できる。
ロイヤリティ設計による収益化の実現
ERC‑7857は、NFT転送時における自動的なロイヤリティ支払い機構を内包しており、AIエージェントの初期開発者・クリエイターが、その後の二次流通・再販からも報酬を受け取ることを可能にしている。この点でも、AIを「創作物としての資産」として確立しようとする姿勢が明確であると思う。
応用可能性と活用例
- AIマーケットプレイスにおいて、カスタムAIエージェントの取引が可能となる
- パーソナルAIアシスタントとして、ユーザー自身が育成したAIを所有・販売できる
- B2B向けAIの分散的提供により、企業内ナレッジや業務効率の新しい共有形態を構築可能
- DAOやメタバース空間における自律型NPCや投票エージェントとしての応用も視野に入る
ERC‑7857によるAIの資産化とその未来
ERC‑7857は、AIエージェントを暗号化・トークン化し、可搬性と進化性を兼ね備えた資産へと変容させる新たなNFT標準といえそうだ。従来の「借りるAI」から「所有するAI」へのパラダイムシフトは、技術的・経済的・倫理的にも重要な意義を持つのではないだろうか。0G Labsが示すこの構想は、おそらくWeb3時代におけるAI利用の本質的再定義であり、NFTカルチャーにおいても充分にゲームチェンジャーとなり得るポテンシャルを秘めている気がする。
註釈
- API(Application Programming Interface):
外部のアプリケーションが、特定のソフトウェアやサービスの機能を利用するために設けられた接続手段。AIの場合、ユーザーはAPIを介してサービス提供者のAI機能にアクセスするが、モデル内部の構造や学習状態への干渉は原理的に不可能。
↩︎ - 重み(weight):
ニューラルネットワークにおける学習パラメータの一種。各ノード間の接続において、入力信号にどの程度の重要度を与えるかを数値として表すものであり、AIモデルの予測精度や挙動を決定づける核心的要素。学習過程において調整されることにより、AIの「知識」や「判断傾向」が形成される。
↩︎ - オラクル(Oracle):
ブロックチェーン上のスマートコントラクトが、外部世界(オンチェーン外)の情報を安全かつ信頼的に取得するために用いられる中継機構。ERC‑7857では、iNFTの転送時に暗号鍵を再構成するためのトリガーとして活用される。
↩︎ - 可変性(variability / dynamic nature):
ERC‑7857が備えるNFTのメタデータ構造が、時間の経過やAIの学習に伴って変化・更新され得る特性を指す。「自己更新可能なNFT」「進化するデジタル資産」といった意味合いで解釈される。
↩︎ - TEE(信頼された実行環境, Trusted Execution Environment):
CPU内部に設けられた隔離実行領域において、暗号化されたデータやコードを安全に処理する技術。外部のソフトウェアやOSからの干渉を受けずに処理が行われるため、機密性の高い演算に適している。ERC‑7857においては、メタデータの復号やモデル推論の検証過程に応用される。
↩︎ - ZKP(ゼロ知識証明, Zero-Knowledge Proof):
ある情報が正しいことを、情報の具体的内容を一切開示することなく証明できる暗号学的手法。ERC‑7857では、AIモデルの整合性や所有権の正当性を保証する手段として想定されている。
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